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中村帆高「今、この瞬間を全力で生きる」


中村帆高
「今、この瞬間を全力で生きる」By 『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(著:岸見一郎・古賀史隆)

様々な言葉を手のひらから発信したり、受信できる時代だ。無尽蔵にわき出てくるからこそ、『承認欲求』だとか、『気遣い』にげんなりしている人も多い。人は不完全で、いつも揺らいでいる。けれど、自分の武器にも、サプリにだってなる言葉もきっとあるはずだ。中村帆高は、大学時代に手にした一冊の本にそれを見つけた。

「好きな本に、『今、この瞬間を全力で生きる』という言葉がありました。そこから僕は常に今、この瞬間を後悔しないように生きるということを心に置きながら行動しています」

本を読み漁った大学時代に出会い、「合計で4度は見直した」という『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(著:岸見一郎・古賀史隆)。アルフレッド・アドラーは「全ての人が目的を持って生きていて、幸せになるには勇気を持つこと」をテーマに独自の個人心理学を構築したオーストリアの心理学者だ。ドラマ化もされた、このベストセラー作品は誰しもが思い悩む課題を哲学者と、青年の対話形式で描き、アドラー心理学を解説した一冊だった。

「うまくいかなときや悩んでいるときに読んできました。そうじゃないときでも、自分の考えを整理したいときにも読むようにしています」

自分自身を「悩んだり、考え込んだりしがち」という中村帆高は、大学時代からコーヒーショップや、カフェで一人の時間を大切に過ごしてきた。

「もともと人と群れるよりも、一人の時間が好きで、自分のやりたいことを他の人に邪魔をされることが嫌いなタイプでした。特に何をやるわけではないし、自分にとってはボーッとすることも大切な時間だった。悩んだり、考え込んだりしがちなので、いい意味で考えすぎないようにしています。コーヒーを飲んだり、ちょっと甘いものを食べる何げない時間が好き。それは誰にでも言えることだと思うんです。人と一緒にいたり、話をすることも大事。でも、自分と向き合う時間も必要。誰にも邪魔されない時間をつくることは大切だし、単純に僕はその時間が好きなだけなんですけれどね」

中村帆高が本のページに見つけた「今、この瞬間を全力で生きる」には、他人に責任を負わせてはいけないという考えが含まれている。もっと言えば、過去や未来の自分さえも、他人なのだ。過去の自分に責任を追わせて逃げたり、決断を先延ばしにしてもいけない。過去も未来も現在を縛るものではない。過去に何があっても、未来がどうだとしても、今考えるべきことではないというのだ。では、選択を迫られたとき、どう決断すべきか。自らの責任で勇気を持って選択するしかない。だからこそ、中村帆高は負傷離脱している『今、ここ』をどう考えているのか。

「初めは落ち込みました。でも、メンタル的にも自分の成長を感じられるぐらい、今はポジティブな気持ちで取り組めています」

中村帆高の思いに、あと一歩踏み込む。すると、彼の口はこう動いた。

「仲間が試合をしている姿を見ると、すごく頑張ってほしいという思いがある。同時に、そこに立てない辛い思いもある。でも、それを考えてしまうと、すごく疲れてしまう。内田篤人さんの本にあった、「考えすぎないということも大事」なのかなって。今、試合を見て焦ったとしても、プラスに働かない。自分自身が一日、一日をこのケガと向き合って過ごせば、自然と先にはつながっていくと思っています。そういう思いで日々過ごせています」

人は揺らぐ。迷うし、逃げたいものだ。そんなとき、片隅に置いてある「今、この瞬間を全力で生きる」が、少しだけ心を頑丈にしてくれた。中村帆高は、そうやって拳を握り、プロ入りや、節目、節目で勇気ある一歩を踏み出してきた。

そして、途方もないくらい自分と向き合ってきた中村帆高だから、たどり着いた答えも存在する。彼が吐き出す言葉も、また人の心を打つ。

「自分を変えることはないと思う。ファン・サポーターの皆さんが思っている自分らしいプレーを見せたい。ほかに欲張ることはない。そのために今を頑張ります」

その言葉を聞いて、味スタに「ただいま」と、「おかえり」が交差する日が今から待ち遠しくなった。

[文:馬場康平]





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