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選手たちを支える言葉

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ブルーノ ウヴィニ「常に最善を尽くせば、残りは神が見守ってくれる」


ブルーノ ウヴィニ
「Faça sempre seu melhor e Deus cuida do resto(常に最善を尽くせば、残りは神が見守ってくれる)」By Tuca Uvini


厳しくも温かい、その言葉には、たくさんの愛情が込められていた――。

ブルーノ ウヴィニにとって元プロサッカー選手で、父のトゥカさんは、最初のアイドルであり、最高のコーチであり続けた。そして、その関係は今も何も変わっていないという。

「父はいつも私に声を掛けてくれる。ときには手紙に思いをしたためてくれることもあったね。私は、その手紙も大切にしているんだ。父は私たちが信じる宗教の言葉だったり、いつも私を良くするために前向きにしてくれる言葉を贈ってくれるんだ」

今回の特集取材は毎回、こんな質問から始まる。

「あなたの心に刻まれている言葉や、心を軽くしてくれた言葉を教えてください」

ブルーノは「そうだね」と言い、こう答えた。

「私の父は、いつも『いつだって最善を尽くせば、あとのことは神様が見守ってくれているよ』と言います。だから、練習を見て頂ければ分かると思いますが、私は最後まで手を抜きません。そうやって毎回全力で準備することを大切にしてきたし、父からそう教わりました。」

プロサッカー選手は日々、苛烈な競争を強いられる。ときに大きなケガも付きものだ。彼もキャリアの序盤に、その不運に見舞われた。

2011年のU-20ワールドカップ(W杯)コロンビア大会出場を懸けた、同年の南米ユース選手権に、ブルーノもネイマールらと共に出場した。多士済々がそろうセレソンは、グループステージを無敗で勝ち抜く。迎えたファイナルステージ第3戦のアルゼンチンとの一戦だった。ブルーノは開始5分で、腓骨を骨折して負傷交代してしまう。チームも1-2で敗れ、大会唯一の黒星を喫した。

その後のチームは、大会MVPと得点王を受賞したネイマールの活躍で、残り試合を全勝して優勝を飾った。だが、ブルーノは道半ばで大会から姿を消し、長期の離脱を強いられる。

「勝負には、もちろん勝ち負けが存在する。負けたときは次の試合で勝利をつかめるように、私たちは最善を尽くさなければいけない。ただ、南米ユース選手権のアルゼンチン戦で大きな傷を負ったときは悲しかったし、残念だったよ。そのけがの後は何もできず、非常に辛い思いをしたんだ」

悲嘆に暮れるブルーノを支えたのは、やはり父の言葉だった。『いつだって最善を尽くせば、あとのことは神様が見守ってくれているよ』。家族の支えを受けて再び前を向くと、U-20W杯本大会では主将としてカップを掲げた。

「ブラジルは、どのファミリーも家族愛にあふれていて、いつだって家族と神様を一番大切にしている。両親は幼い頃から今も変わらず、いつもどんなときだって私の支えだ。今は大人になり、結婚して隣には妻と、子どもたちがいる。彼らはいつも僕をサポートしてくれているよ」

そう言うと、少しだけブルーノの表情が曇った。「だから、寂しいし、早く会いたいよ」と言い、言葉を足していく。

「残念ながら、家族はまだ来日できていない。家族と一緒にいられないのは、心にポッカリ穴が空いたようだよ。まだ幼い子どもたちと会えないのは寂しい。テクノロジーの時代だから、インターネットをつないで話はできる。でも、『どうしてこんなに離れているの?』と言われても、下の子どもはまだ2歳。説明しても、おそらく理解はできないよ。日本に来て半年が経つが、ずいぶん彼らも成長した。その期間を立ち会えなかったのは残念だね。僕はこれといった趣味もないから、家族との時間を過ごすことが何よりの楽しみなんだ。辛いけれど、今は我慢するよ」

そんな今だからこそ、トゥカさんの言葉を頭の中で反芻する。『いつだって最善を尽くせば、あとのことは神様が見守ってくれているよ』。そうすると、心が軽くなって、また強く一歩を踏み出せる。

「これを乗り越えれば、また強くなれると信じているよ」

日常だった家族の風景を再び取り戻せる日を切に願い、ブルーノは日々最善を尽くしている。地球の真裏から毎日届く、愛が詰まったメッセージを楽しみに。

[文:馬場康平]



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