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青赤ユースっ子

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FC東京U-18「僕たちは歩み続ける」


20191215日、遠く広島の空へ若き青赤戦士よる勝利の歌が轟いていた。高円宮杯U-18プレミアリーグへの参入プレーオフを制し、無念の降格から1年での返り咲きを果たしての凱歌だった。



「自分たちが1年生のとき、自分もリーグの最後に出ていたのに、プリンスに落としてしまった。苦しかったし、それだけにうれしかった」



DF大森理生はそう言って少し複雑な笑顔を浮かべる。自分たちにプレミアリーグという場を取り戻してくれた先輩たちへの感謝の気持ちも強かった。

それだけに「『今年はやってやろう!』という気持ちだった」(大森)。


だが、待ち望んだシーズン開幕を前にして、思ってもみなかった暗雲が全世界を覆うこととなる。

コロナ禍である。

当初は早期収束も期待されていたこの病は、その希望的観測に反して世界中に混乱と混沌をもたらし「スポーツどころではない」世界を生み出していく。

日本の育成年代もこの直撃を逃れることはできず、あらゆる大会が中止に追い込まれる中、FC東京U-18はチームとしての活動自体を自粛せざるを得なくなった。



中村忠監督は当初、進路の不安もある3年生たちに「U-18の試合はすぐ始まらなくても、J3はあるぞ。FC東京U-23の試合にすぐ出られるような身体にしておくように」と発破をかけていたという。

それだけに、コロナ禍の影響を受けてFC東京U-23の活動も中止になったことで、「選手たちはショックを受けていた」(中村監督)。



MF角昂志郎は「自粛期間は本当に苦しい時間だった」と振り返る。

「今年は思い切りアピールをして、トップチーム昇格までいってやろうと思っていた」と語る待望のシーズンは一向に始まらず、地元で友人のGKを誘って「ひたすらシュート練習していた」という毎日。

だが、それも誰かが見てくれているわけではない。自分の力を示す場を与えられない悔しさは初めての経験だった。


ただ、後に中村監督が「特に主力の3年生たちは本当に意識高くやってくれたと思う」と振り返るように、彼らは落ち込むばかりではなかった。



MF常盤亨太は「いかに自分自身と向き合えるかだな」と割り切り、「土手が近所にあったので」とそこでチームから渡されているフィジカルのメニューだけでなく、シュートやキックの練習に励んだ。

「ひとりぼっちの練習でしたが、週1回(オンラインでの)全体ミーティングがあって頑張っているみんなの様子が分かったので、そこが救いだった」と、地道なトレーニングを継続していた。



大森もまた「コツコツ積み重ねるのが得意なところなので」と、個人練習に取り組んだ。

渡されたフィジカルメニューはセット数の目安が書いてあって選べるようになっているが「そこはマックスで」取り組みつつ「午前中はそのメニュー、午後はボールトレーニングという感じで」自分自身の心技体と向き合う日々を送り続けた。


チームとしての活動はできない。公式戦がいつ再開されるかも見えない。進路の不安がなかったと言えば、ウソになる。ただそれでも、FC東京U-18の選手たちは前を向いて取り組みを続けた。



それだけに、6月の第2週に入って、当初は週1回か2回というローペースながら練習再開の知らせが入ったときの喜びはひとしおだった。

「みんなと一緒にグランドで話すだけでも本当に楽しい。もう本当に小学生のときに戻ったような気分だった」(常盤)

「楽しい気持ちしかなかった。本当に他愛もない日常ってこんなに大切なのかと思った」(角)

7月に入って全体練習も徐々に再開され、東京都のチーム限定ながら練習試合も組めるようになった。意識の差からバラバラだったというコンディションも徐々に整っていく。

また、「僕らの仕事は育成で、次に繋げていくことが何よりも大事。3年生たちとは進路の問題について毎週のように話をしてきたし、例年よりも早め早めに動いた」と言う中村監督らスタッフたちの尽力もあって懸念されていた進路の問題もクリアになっていった。




トップチームへも大森の昇格が決定。

すでに昇格済みだったGK野澤大志ブランドンと合わせて「学年で2名をトップに送り出すことができました。こういう年ですが、最悪の事態はまぬがれることができたし、(トップに選手を送り出すという)アカデミーとしての役割も果たせました」(中村監督)とホッと胸をなで下ろすこととなった。





そうしたタイミングにあって、高円宮杯プレミアリーグも関東地域限定のリーグという特殊な形式ながら開幕が決まり、選手たちのモチベーションは自ずと高まった。

迎えた横浜F・マリノスユースとの試合は、「前日に寝られなかったという選手もいた」(中村監督)という公式戦特有の緊張感もあって大苦戦を強いられることとなったが、「出し惜しみせず、最後の笛が鳴るまで戦い抜いてくれた」というサッカーができる喜びをフルに感じさせる敢闘ぶりで、1-0の快勝となった。



トップ昇格を逃す形になった角も「まずサッカーができる幸せを感じているし、落ち込んでいるというより『見てろよ』という想いが強い。

大学へ行くことになったことがマイナスになるとは思わない」と取り組む。

そうやって前向きに取り組めるのも、今季トップチームで活躍するMF安部柊斗のような「大学からプロになって活躍する先輩たち」の存在があるからで、それもまた東京のアカデミーが歴史を刻む中で培ってきた伝統の力と言えるだろう。



大宮アルディージャU18との第2節はその角のスーパーゴールも決まって2-0と快勝を収め、第3節・市立船橋高校とのアウェイマッチは0-0の引き分け。そして流通経済大学付属柏高校との第4節は1-0で勝ち切る試合となった。

「毎試合、異なるタイプの相手と高いレベルで真剣勝負の試合ができている」と中村監督が笑顔で語るように、公式戦のリーグ戦“ならでは”の緊張感の中で「サッカーができる幸せ」を感じる毎日だ。

チームの合い言葉は「プレミアリーグ関東も(年末に予定されている)日本クラブユース選手権(U-18)も全部勝つ」(大森)と明確に定まった。



「普通に考えると、『コロナのせいであまりいい年じゃなかったな』となると思うんですけれど、俺たちはサッカー選手としてまだまだ続いていくわけですし、このコロナだって良い材料になる。ここからのシーズン、普段の年よりも絶対に濃い時間になる」(角)



若き青赤戦士、想像もしていなかった困難の中で、仲間とボールを蹴れる喜びを再認識し、新しい歩みを始めている。

まだまだチームとしての課題もあるが、それでも今はその課題を解決するためにトレーニングをし、次の試合にぶつける場がある。「昨年よりも1週間の準備を大切にできるようになった」(常盤)

この繰り返しが、きっと彼らの未来に向けて糧となっていくことだろう。




(c)F.C.TOKYO