森重真人
感動に心奮わせ、怒りで涙を落としたことがあったかもしれない。もしかすると、そこで恋や愛が生まれたかもしれない。
手元の端末で全てが片付く時代にあって、そこで味わった感情を再び手にするために、いまもホームに足を運び続ける人たちがいる。
2001年に始まった、その物語の中に、10年前から加わった男がいる。
それから長い月日は流れても変わらず、森重真人は 青赤のユニフォームに袖を通してきた。
そして、彼は叫んだ。
10年間を過ごしたわが家で「優勝しましょう」と。
リーグ優勝はあと一歩のところで逃した。だが、2019シーズンをクラブ史上最高位の2位で終え、チームメイト5人と一緒にベストイレブンにも3年ぶりに輝いた。自らも、チームも10年という歳月によって熟成が進んだということなのだろう。髪形や、雰囲気は10年前からずいぶんと変わった。語り口もどこか軽妙洒脱になったようにさえ思う。ただ、変わらぬ姿もある。五感 全てを刺激するピッチでは、エレガントかつ無骨であり続けた。それを見てきたのは、ファン・サポーターも同じだ。
「ファン・サポーターには感謝しかない。ここぞ、でずっと負けてきた。それでも、何万人という人が応援してくれる。これだけたくさんの人が応援してくれるからこそ、不甲斐ないことはできないと思ってきた。 言葉じゃない、ファン・サポーターのみんなのそうした行動にグッとくる。今年つかめなかったモノをみんなで獲りに行く。それだけかな。この1、2年で変わってきて、ソレを獲ったらもっと楽になるのかな?個人的にはどれだけ東京のセンターバックで長くやれるかだと思う。終わりはまだ意識はしていない。このまま進んで行けば、“いつかは”というときのための準備はできるかもしれない。きっと、いろんなことを見ながら判断していくと思う。その時になってみないと分からないから、考えるのはそう思った時でいい」
頑張って、頑張って、頑張っても報われないことのほうが多い。10年間、それを訊いて、聴いて、聞いてきた。
森重が紡いだ第1章のエンディングで吐き出したのは 、 少し苦みばしったフレーズだった。「何かが起きた時にどうするは、この10年で学んだ。人生は意外と不公平だということも」
その続編の第2章の最後は、違ったものであってほしい。そう願う人は、きっと10年前よりもたくさん増えたはずだ。
青赤を着た彼がユルネバを耳にし、ラストシーンで流すうれし涙を僕はいつか見てみたい。きっと泣いても本人は否定するだろうけど、そんな奇跡を起こすために森重真人は、いまも“ここ”に変わらず居続けている。