永井謙佑 永井謙佑には、笑顔がお似合いだ。 「笑っている人を見ると、こっちも幸せになるでしょ。だから、常に楽しくいようと思う。それが連鎖していけばいいなっていつも考えている」 そう思わせてくれた言葉が存在する。新婚間もない2012年、日常のふとした瞬間だった。妻の綾香さんからこう言われた。 「(謙佑は)いいときはいつも笑ってる。だから、笑ってたほうがいいよ」 その言葉にハッとした。ロンドン五輪に向け、自分でも調子が上向いているのが分かっていた。その実感と、長い時間を共有する家族からの言葉だったからこそ刺さった。 「そう言われてからかな、より明るくなったかもしれない。もともと人見知りだから、以前は無愛想だったし、興味がない人には心を開かなかった。だから、徐々に変わっていけたのだと思う」 だからなのか、永井の周りはいつも笑顔であふれている。 「最近一番笑ったことは?」 そう聞くと、「一番笑ったのは……」と言い、白い歯と一緒に「娘に足くさいって言われたときに大爆笑したかな。自分でも嗅いだら、くさくて速攻で足を洗いました」と、こぼれた。 ただし、その笑顔も、永井の豊かな感情表現の一つだ。 「裏表がないようにしたいので、ハッキリしている。本当は喜怒哀楽が激しい。悔しかったら悔しいって言う。いつも笑っていたいけれど、負けるのは絶対に嫌」 素直に喜んで、本気で怒って、一生懸命泣いて、腹の底から笑う。だから、大好きなサッカーにはいつも真剣に向き合ってきた。 「それがいい一体感を生むし、そういう集団のほうが強いじゃないですか? なんかあったときには、声も掛け合えるから」 そんな永井にとって、最高だと感じる場面がある。それはストライカーの特権なのかもしれない。ゴールを決め、仲間たちとひとしきり喜びを分かち合う。そして、見上げた観客席にいるファン・サポーターの笑顔が目に飛び込んできた瞬間だという。 「ゴール裏に行ったとき、ファン・サポーター一人ひとりの顔が見えて、こっちも興奮する。みんなも幸せそうだからうれしい。だから、(優勝争いをした)19年は本当にオレも楽しかったし、ファン・サポーターも幸せそうだった。この笑顔をもっと増やしたいと思えたかな」 長引くコロナ禍で観客数に制限のある試合が続く。幸せの瞬間を共有してこそ、笑顔になれる。永井が得点を、勝利を希求するのは、スマイルの連鎖を生み出すため、だ。 やっぱり一人では、笑うことはできない。仲間がいてこそ、だ。永井の笑顔が、それを教えてくれる。 あなたは最近、笑っていますか?
「笑ってるほうがいいよ」by 妻・綾香さん
[文:馬場康平]